カムという場所。

社会人になってからも年に一度は1週間程度の休みを取ってアジアに出かけているのだけど、一度だけ計画したものの渡航を断念したことがある。中国の四川省の位置するカンゼ・チベット族自治州というところである。

チベットと言えばポタラ宮のあるラサが有名なのだが、いわゆる東チベットと呼ばれるこのあたりもなかなか興味深いエリアであるし、べらぼうに高いラサまでのフライトに比べれば成都まで飛んでしまえば後は陸路でなんとかなる、との考えでかなり具体的に計画していたのだが、陸路移動の条件が非常に悪く、そもそも省都である成都からバスで康定というチベットエリアの入り口にあたる街までの移動にまるまる24時間(距離はたったの300キロくらいなのだが)かかることもある(現在は高速道路も開通したので7時間くらいで行けるそうな)とのことで、そこからさらに10数時間かかる本格的なチベットエリアまで足を伸ばしたかった自分としては、1週間の旅程を鑑みて泣く泣くこの渡航を断念したのだ。

康定から先は、海抜3,000〜5,000mほどの高原が広がっている。人口1万人前後の小さな町が点在し、黒く日に焼けたチベット族の人たちが暮らしている。特にこれといった観光地はないのだが、どの町にも立派なチベット寺院があり、祭りの時期にはこの平原のどこにこんなに人が住んでいたのかと思うほどの人が寺院に集ってくる。鮮やかなチベット寺院と、とても濃い空の色(写真でしか見たことがないが、青というより紫がかった色をしているようにも見える)のコントラストがこのエリアのハイライトだ。もちろん人懐こいチベタンも。
この高原を北西に抜けると、果ては敦煌にたどりつくし、南に抜ければ雲南省、シャングリラに着く。何日もかかるが、西へ西へと進めばラサにたどりつく。

チベット族のなかでも特に信仰に篤い人々が住んでいるこのあたりはここ数年で中国政府による弾圧運動が最も盛んなエリアとなってしまった。しばしばニュースでも採りあげられるチベット僧の焼身自殺はほとんどこのエリアで起きている。おいそれと気軽に行けないエリアであることは確かだけれども、今後2週間くらいのまとまった休みが取れるチャンスがあれば、足を運んでみたいという気持ちは変わらない。