サイン。

新幹線の待合室でぼうっと1日を振り返っていた。ゆっくりと椅子を降りて、トイレに立ち寄って、本屋をひとなめして、ホームに上がる。ふと違和感があって背中を振り返るといつものビジネスリュックがない。

珍しくおみやげを買い込んで、紙袋を持っていたからなかなか気づかなかったのだ。新幹線がホームに滑りこんでくる。階段を駆け下りようという気持ちが湧き上がったが、ひと呼吸おいて、いまリュックを取り戻してホームに戻っても、もう間に合わないだろうと脳が反射的に判断し、焦って二次災害を引き起こすよりは、落ち着いていこうと気持ちを切り替えた。

果たして、待合室の床にリュックはそのまま鎮座していた。まずはひと安心だ。最悪のケースは避けられた。いちおうとって返してホームに戻るが、新幹線はすべり出したところであった。仕方がない。

まだ最終までにはいくぶんの余裕があったので、気を取り直して後続の自由席に身体を収める。これもなにかのサインでありアラートだ。真摯に受け取るのだ。