鼓動。

産婦人科の待合室は不思議な空間だ。端的に言えば、待っている大人の女性の数だけ、お腹に宿った新しい命もそこに鎮座している。その命は現時点では眼で見ることはできないけれども、少し想像力を働かせてみれば、それぞれの命が光り輝いているかのように感じられる。

扉の向こうの診察室から、その命の鼓動が確かに聴こえてくる。毎分150回ほどの速い心拍が、私はもうこの世にいるんだよというメッセージを伝えている。命の誕生はお腹のなかから産まれてきた時点ではなくて、受精卵が完成した時点のことを指すのだと思っている。

君のことはまだエコーを通してしか見たことがない。どんな顔をしているのか、おぼろげにしかわからない。でも、確かに言えるのは僕はもう君のことが大好きだということ。そして、間違いなく君は、本当にたくさんの人に祝福されてこの世界に姿を現すということだ。

お母さんのお腹を2回コンコンと叩いてみたら、足だろうか手だろうか、きちんと2回の振動がお腹の向こうから返ってきた時、どれだけ嬉しかっただろうか。産まれる産まれないではなくて、もう君はそこにいるのだ。