アトラス越えの1日。

ミントティーを飲むおっさん達と、アテネの街を走る野口みずきの姿をテレビで見た翌日、満を持してアトラスを越えた。

フェズからやってきた朝一番のバスがイフレンの街に入ってきたのは9時ごろだっただろうか。バスはおんぼろだが、心配していたほどの混雑もなく、窓側の席を確保する。ここから2つの山脈を越えて、サハラ砂漠の入り口となるエルフードに向かう。

1つ目の山脈はモアイヤンアトラスと呼ばれる。ザッド峠のピークは標高およそ2,200メートル。淡い土色の山肌にコケのような植物がきめ細かく生えた斜面に取り付くように道路が伸び、バスはそこを丁寧に登っていく。来た道を振り返れば、なだらかな山々がずっとうねっている。地理の授業で習った造山帯というフレーズが頭のなかに浮かぶ。ずり落ちた眼鏡を右手中指で上げる仕草が印象的で、1年かけて教科書の1/5しか進まなかったあの地理の先生は元気だろうか。わら半紙のプリントには、サンフランシスコがシスコと略して植字されていたことも一緒に思い出される。

そんなことを思い出したりしているうちにバスは峠を越えて快調に飛ばすようになる。土色の平原に石がごろごろと転がっており、時折羊の群れの姿を見る。ミデルトの街に着く。こじんまりとした街だが、アトラス越えの道中では貴重な補給点となる。バスターミナルの食堂で一休み。街の人の顔つきが変わる。モロッコの人は大きくアラブ系とベルベル系に分けられるのだが、どうやらベルベル人の土地に入ったようだ。

ミデルトを出ると2つ目のタルゴムズ峠へ。オートアトラスの端っこに近づいているので、ピークはそれほど高くもなく1,900メートルほど。一転して、山肌の色は赤茶けたものになり、ラクダが姿を現す。風景は「アラビアのロレンス」そのもの。やがてどこからか川が一本道路に寄り添うようになり、川の両側には濃い緑の葉をつけた木々が密集するようになり、さながら赤茶けた大地に緑の帯が引かれたようになる。

バスはその後もサハラに向けて下り続け、夕方前にエルフードの街に入る。エルフードはアンモナイトが有名だそうで、そこかしこの店でアンモナイトなどの化石が並べられている。大昔はこのあたりも海の底だったのが、プレートの衝突により大地が盛り上がり、アトラス山脈が生成されたのだ。小さい化石の方が高い値がついているのは、旅行者が持ち帰ることを想定してのものだ。

ここからは個性的なベルベル人に振り回されながら、モロッコの最果て、アルジェリアを目と鼻の先とするメルズーガ砂丘へ。その時のことは、また改めてどこかで。