アベノミクスのその先。

政権交代を経て、経済界のムードは明るい状態が続いている。衆院選前にここまでの円安進行、株価の上昇を予測していたアナリストはほとんどいなかったはずだ。エネルギー問題や輸出企業の為替ヘッジを見れば、もはや円安によるメリットがデメリットを上回っているようには思えないのだが、ここまでは1円円が安くなれば日経平均株価が200円上がる、という正比例関係がほぼ保たれてきた(1ドル90円の水準を超えてきたところで過度な円安進行に対する懸念からかそのペースは崩れつつあるが)。個人的には株価が上昇してくれるのはありがたいのだが、現在の明るいムードのその先に待ち受けるシナリオを思うと、正直なかなか複雑な気持ちになる。

今回の円安進行は、いわゆるアベノミクスと呼ばれる金融緩和を要因とすると言うよりは、化石燃料の輸入増加に端を発した貿易収支の悪化に伴う要因のほうが強いように考えている。そのため、5年ほど続いた円高局面は去年をひとつのターニングポイントとして転換し、今後はだらだらと円安が進んでいく。米国景気には安定感が出てきており、妙な落ち着きを見せているユーロ圏の財政問題が再燃したとしても、円高の流れに戻ることは考えにくい。そして、その円安がボディブローのようにじわじわと日本経済を蝕んでいくのではないかと考えている。

円安になれば海外に移転した工場が日本に戻ってきて、雇用情勢も回復するのではなどというロジックはもう成立しない。人件費の高騰によって中国からASEAN後進国へと製造業の脱出が続いているなかで、多少円安になったからといって、製造業の拠点が日本に戻ってくる訳はない。それでも多少は生産拠点を日本に戻す動きがみられるようだが、その理由は日本でしか生み出すことのできない品質を求めるがゆえであったり、高付加価値品の製造に限られているし、製造業回帰の流れについてはこれがあるべき姿であると思う。

一方で、円安による物価上昇の流れは避けられない。輸入に頼っているエネルギー価格の上昇は大きなダメージとなるであろうし、外食や輸入に頼っている食材の値上がりは必然である。物価が上がる一方で年金支給額などは据え置かれるので、実質的な年金削減、預貯金の価値の目減りと言ってもいいし、現政権はおそらくそれを狙っている。生活レベル自体はじわじわと、人々が気付きにくい速度で真綿で首を締めるように悪くなっていく。一部の輸出企業やグローバル企業は潤うだろうが、全体的には貧富の差も拡大して、社会の風景は欧米により近づいて行く。円安が進んでも、若い世代が海外に出ていく流れは止まらない。このあたりが、今後5年くらいの大まかな傾向ではないかと考えている。