『思いを運ぶ手紙』。

ブータントピック続きになりますが、先日『思いを運ぶ手紙』という映画を見てきました。ウゲン・ワンディさんというブータンの方が製作したドキュメンタリー作品です。ブータンで働く友人に勧められて見てきました(彼のブログhttp://thanks2happiness.blog.fc2.com/)。ちなみに彼が今ティンプーで住んでいる家の大家さんがウゲンさんの母親なのだとか!

★★★

作品は、リンシという、ティンプーから北方にある山岳地帯の集落へ、手紙を配達する郵便配達員の話です。山道を5日かけてリンシにたどり着く姿が淡々と描かれています。リンシへの道は、まずはティンプー川に沿って峠を越えるところからはじまります。川を渡る時には、衣服をたくしあげ、長靴を穿くのですが、長靴の上から配達員の細くて茶色いふくらはぎとふとももが見えます。あんなに細い脚で郵便物に加えて、5日間を過ごす物資等々を背負って歩き続けるのか、と思います。峠を越えて、野営をしながらじわじわとリンシの町へと距離を詰めていきます。トレッキングサイト等で調べてみると、配達員はシャナからリンシまで約54キロの道のりを歩くようです。最高地点は標高5000メートル近い峠。夏には雨が降ってぬかるんだ道を、冬には雪で凍った斜面を滑らないように慎重に歩くシーンもみられます。作中の大半にわたって、雄大なヒマラヤの道のりを配達員が歩き続ける姿が描かれていきます。個人的には、疲れて若草色の斜面に横たわって休憩するシーンが印象的です。リンシに到達した後の、リンシに根を下ろして生活する人々とのやりとりや、配達員の家族の生活を描いたシーンもあります。全体を通して、非常に素朴なつくりでありながら、ウゲンさんの、丁寧に映像を作り上げている気持ちが感じられる作品です。

★★★

上映後のトークセッションで、いくつかウゲンさんの思いを聞くことができました。会場から、「開発を進めることと、GNHの概念を守ることは一見矛盾するのではないか」という質問がありました。ウゲンさんは、「しかしながら、リンシまでの道が半分でも開発されれば、運送コストは飛躍的に下がる(現在リンシの人々はティンプーの人々と比べて日用品を買うのに4倍のコストがかかっている)。万人の幸せになるのであれば、開発は進められるべきだ」と答えていました。また、小型機械の普及を通して農業や牧畜の生産性を向上させることで、農村部の生活を向上させることの必要性を話していました。開発を否定しない一方で、作品全体を通して伝わってくる、ブータンの農村部に息づく人々のある種の「豊かさ」を壊さないように後世まで伝え、残していきたいという意思を感じました。

最後に、当日の会場には若い世代だけでなく、還暦を過ぎた方の姿もかなりみられました。聞くと、土木技術や農業指導など、なんらかの形でブータンに関わってこられた方とのこと。昔から日本とブータンはつながりがあったのだなぁ、と改めて感じました。