2004年のモロッコ③。

(昨日の続き)砂漠はなによりもとても静かである。ここで音もなく倒れても、誰も気づかずに朽ちていくのだろうな、と思いながら静かに3日ほど過ごした。本当は1週間くらいいるつもりだったのだが、長くいると砂漠の雰囲気に呑み込まれてふらふらと命を投げ出してしまいそうで、これはマズいと北に戻るクルマに乗った。ベルベル人のおっさんたちが悲しんで、なにか餞別をくれと言うので、履いていたジャージを渡した。

そうして、テープを巻き戻すかのようにヨーロッパに戻った。ヨーロッパは既に秋の気配で、肌寒い風に温かいパニーニが身に沁みた。余った日は、パリ北駅の安宿に沈没しながら、博物館などを見てまわった。大学では既に二学期が始まっていたが、どうでもよかった。日本に帰れば、あっという間に秋冬が過ぎて、卒業式を迎えたら会社で働く人生が待っているのだ。その頃は、どうにもあらゆることに前向きになれない自分がいた。今の自分が当時の自分の前にいたら、なんと声をかけるだろうか。