瞬間。

相変わらずの猛暑が続いた先日、帰り道の電車に揺られているとふっと車内の灯りが消えた。それとともに勢いよく音を立てて動いていた空調も止まった。電車自体は変わらず動いている。

なにが起こったのかとびっくりして、思わずつり革をぎゅっと掴んだ。周りを見ると、思ったよりもみな落ち着いている。わずか数秒で、灯りがつき、空調が復活した。ドア上のデジタルサイネージは、リセットされたのか、初期画面が映し出されている。

電車はなにもなかったかのように駅のホームに滑り込み、ドアを開ける。乗降が終わりドアが閉まるとまた走り出した。なんだったのか、振り返るまもなく世界が回っている。

ふと残ったのは、空調が切れた瞬間の感覚だ。わずか数秒で、空気がもわっとした気がした。西日がきつく差し込む満員電車で空調が切れてしまうと、たちどころに空気は変質するのだ。なんとも細い綱の上で、僕たちは暮らしているものだ、とつくづく思う。