神の左。

山中慎介という名前を聞いて、とある昔の情景を思い出した。

もう8年くらい前のことになるだろうか。仕事で大阪市の南部を歩いていた。その日歩いていたエリアも、昔の西成ほどではないが、お世辞にもガラのいいところではなくて、どこまでいっても平屋のバラックが並び、家の前を鎖に繋がれた犬が吠え、西日がバラックの屋根を真っ赤に染めていた。暑くなりはじめた頃だったように思う。街全体を気だるい空気が包んでいた。

バラックの前でステテコ姿でたたずんでいたおっさんが不意にファイテングポーズをとって、「きょうはボクシングがあるんや」としゃべりかけてきた。なんだか怖くなって小走りで路地を抜けてしまった。近くの体育館でタイトル戦があるようだ。

それが、山中慎介が日本タイトルを奪取した夜のことだった。2018年のあの街の情景はどうなっているだろうか。ふと足を運んでみたくなった。大阪もここ数年でずいぶん街の雰囲気が変わったものだが、おそらくあのあたりに関してはほとんど変化はないのだろうと思う。