熱病。

金曜夜の会食は、夜景のよく見えるタワーのレストランだった。こういうところで会食するのは珍しいし、プライベートでももはやとんと行くことはなくなったので、懐かしさを覚えながら食事をした。ちょうどはす向かいの席では、窓に「happy birthday」と描かれた旗が連なり、大掛かりなキャンドルが揺らめいていたり、サプライズでチェロの生演奏が入ったりと、ふわふわと浮ついた空気が流れていた。

結婚する前は、シティホテルに泊まったり、レストランで食事をしたりということが何度かあったのが、ここ5年くらいは本当にそういう機会が少なくなってきた。あれはなんだったのだろうか、一種の熱病のようなものだったようにも思う。

夜景と食事を堪能しながら話す会話も、どこかふわふわとして実体のないものに感じる。もちろん食事は美味しいし、夜景にも見とれてしまうのだけど、大いに違和感を感じる。そのうちに眠くなってきてしまって、僕はまどろみのなかで夢と現実を行き来する個体となる。

日付が変わって、駅から自宅までの道をとぼとぼと歩いている。張り詰めた冷気に、目が覚めてくる。今夜もまた、僕は熱病に侵されていたのかもしれない。