献身。

長い間業界の生き字引のような存在として活躍されてきた方が、別の分野に異動されることになった。競合他社の方ではあるが、僕自身のことも非常に可愛がってくださり、面倒をみていただいた方だ。今回の異動は今年のこの業界の1番のトピックになるかもしれない、というくらいの衝撃である。

競合でありながらも、盟友でもある、そんな距離感で付き合ってくれる人だった。人によって付き合い方を変えることもなく、誰に対しても真摯に向き合う姿勢を持つ方だった。仕事に対しても真摯であるがゆえに、社内ではしばしば対立を引き起こすこともあったと聞いている。そのような経緯も異動の遠因になったのかもしれない。

特に社外からたくさんの感謝の意が寄せられていた。感謝の意はお金には換えられないし、社内での昇進にもけしてプラスに働くものでもないのだけれども、それは確かに彼が周りの方に気を配ってやってきたことの証左であり、お金のためでも地位のためでもない彼の献身へのささやかな見返りだったのだろう。

フリーライダーとして生きることもできるし、僕なんかは安易にそちらに流れてしまいがちである。自分自身への後ろめたさとともに彼への憧れが自分のなかにあることに気づく、金曜の帰り道だった。