夏空。
電車に乗って西に向かっていた。
夏らしい青空が姿を見せたかと思いきや、一気にねずみ色の雲に包まれ、ほどなく大粒の雨が窓を叩きつける。電車は高速走行区間に入り、1度はぐっとモーターをうならせて速度を上げようとしたが、最高速度に上がりきらないうちにモーター音は弱まり、どしゃ降りの雨の中をゆるゆると走り続けた。車内放送がこの先徐行運転を行うことを告げた。
乗客の誰もが顔を上げて窓の外を見ていた。猛烈な雨は降り続き、畑には水たまりができ始めていた。このあたりは先日の台風の際にも断続的に雨が降ったエリアで、その爪痕もところどころ残っている。山肌に深く刻まれた谷には、どこからか流れてきた大木が枝ごと横たわり、その脇の水流は勢いを増していた。寄り添うように敷かれた片側1車線の道路には、心細そうに1台の車が走っていた。雨粒はほとんど真横に流れているようで、洗車のように窓にかぶさってくる。
県境の長いトンネルに入って、ようやく電車のモーターに力が入った。トンネルを抜けると、なにもなかったように夏の青い空が広がっていた。5分の遅れで次の駅に到着する、という放送が流れてきた。もうちょっと夏は続きそうだ。