乾杯。

最近仕事上の会食が多い。食事はそれなりに美味しいし、お酒はさらに旨いのだが、それでもなお、本質的には自分は酒を飲むことが苦手だと感じる。深く酔った後で頭が重くなり、呼吸が浅くなる感覚は好きではない。お酒自体は好きだけれども、ちょびっと飲んで顔が赤くなり、1時間くらいで酔いが引いてしまうくらいが1番気分がいい。

★★★

ムスリムの国を除けば、世界のいたるところで酒は古来から作られ、人々は酒と親しんできた。見知らぬ人と仲良くなるための1番の方法は、一緒に酒を飲むことだろう。だからこそ、取引を行う時に会食の機会が設けられ、酒を交わすようになった。酒が苦手だと出世できない、なんてことは今ではおおっぴらには言われなくなったものの、不文律としては今なお残っている。自分で飲んで楽しむものとしての位置付けを超えて、コミュニケーションのツールとしての役割が酒に与えられた。僕自身の大学以降の思い出のいくつかも、やっぱり酒と紐づいている。

しかしながら、酒は時に人を狂わせる。ふしだらだから酒に溺れてしまうなんてことはなくて、心の隙間に酒はいとも簡単に入り込んで、人を蝕む。ちまたにはいろんな依存性があるけれども、アルコール依存性は1番古くから、最も多くの人を蝕んできたように思う。

酔いがさめたら、うちに帰ろう。

酔いがさめたら、うちに帰ろう。

鴨志田穣は、どうしようもない奴で、一言で彼の人生を言えば、好き勝手に生きて死んでいった、となるだろう。母親にシモの世話をさせ、妻と子どもに暴力をふるった。でも、この本を通して、彼にしか見えなかった世界を書き残し、彼なりのやり方で、自分の気持ちを伝えたのだと思う。だから西原理恵子も、彼女なりのやり方で、返歌ともいうべき作品を残したのだろう。

時には面白おかしく、時には淡々と文章が綴られている。しかしながら、当人にとっては本意ではないだろうが、この文章には愛が溢れている。照れ臭さと恥ずかしさの分厚いヴェールに包まれているが、それらを剥いた後に残るのは、ものすごく純粋な男の気持ちなんだろう。だからこそ、周りの人に恵まれて生き、この世から温かく送り出されていったのだと思う。

どんなに周りに迷惑をかけて、ハチャメチャな人生を過ごしたとしても、その根っこにある気持ちを受け入れ理解してくれる人がどこかで現れるのだと思う。この気持ちは曲げようとしても曲げられるものではないし、消すことのできないものでもある。そして、その理解してくれる人に看取られて死んでいった彼は、やっぱり幸せ者なんだろう。