経済合理性の罠ー波瀾万丈!おかね道展

前々から楽しみにしていた日本科学未来館の「波瀾万丈!おかね道」という特設展に行ってきた。行動経済学の大家である大阪大学の大竹教授が監修している。展示初日ということで取材も入っていた。

経済学とは従来、自己の利益を最大限に考え、そのために合理的で一貫した行動を採ることを前提とした「ホモエコノミクス」を用いて理論付けられるものであったが、行動経済学は生身の人間の実際の行動が、いかに「ホモエコノミクス」としてのふるまいから乖離しているかを検証、分析していく学問であると言える。経済学と名がついているが、むしろ心理学的な要素の方が強く、数式を用いるというよりも、統計から分析して個々の現象に名前を付ける、というような道のりの学問である。

館内を迷路のように道が作られており、進みながら10の実験に取り組んでいく仕組みになっている。どれも人間の実際の行動特性をうまく抽出した実験になっている。展示場の仕組みもどことなく行動経済学が意識されているような気もする。

そして実験自体はどうだったか。ネタばらしになるので具体的な内容には触れないが、日頃僕自身は仕事柄「ホモエコノミクス」として経済合理性を追求しているとの自覚があったものの、結果はホモエコノミクスとはほど遠いものになった。薄々予想はしていたものの、僕の思考回路は全然経済合理性に叶ったものではなかった。と言うか、自分のなかで経済合理性とはこういうものだと定義していたものが、実際には心理的な要素もかなり含んでいたものだった、と言うのが正しいか。

もちろん経済合理性に基づいて取引は行われるものなのだけれども、実際の取引を経済合理性だけに頼りすぎれば上手く進まないことの方が多い。取引相手に心理的に気持ちよくなってもらったり、その対価として経済的にはこちらがプラスを得る、という取引の一場面は、世の中の至るところにあふれているし、相手に経済的にもメリットがあると錯覚させる(実のところはこちらにメリットがある)ためにいろんな策略を凝らすこともある。ビジネスの場面においてはそのような応酬が全てとは言わないまでも、かなりの割合を占めているように思う。それがある一線を超えると詐欺になったりもする。その一線のコントロールが上手い人のことを、おカネの匂いに敏感な人、ビジネス感覚に優れた人と言うのだろう。純粋に「ホモエコノミクス」な人がもしいたとしても、経済学の前提の世界を飛び出した実世間では、取引を有利に進められるとは全く思えない。よく考えてみるとそれは当たり前のことなのだが、経済合理性の罠とでも言うべきか。これだから人間どうしの関わり合いは面白い。