丹沢登山。
趣味欄に登山と書くわりに、実際には3ヶ月に一回くらいしか登りに行けておらず、体力の低下もあいまって恥ずかしい限りなのだが、この週末は丹沢に行ってきた。手軽に登ることのできる山は秩父にも奥多摩にもたくさんあるのだが、日帰りで山々を縦走するダイナミックさが味わえるのはやっぱり丹沢以外にないと思う。
秦野駅9時20分発の峠行きの最終バスに乗る。普通の登山者は7時台や8時台のバスに乗っていくはずなのでなんともねぼすけではある。案の定、バスを降りた人たちは丹沢の表尾根とは反対側で比較的短時間で登ることのできる大山に向かっていく。この時間から表尾根を縦走しようとする人はまれだ。そしておじさんの単独行が多い。
最初の1時間ほどの急な登りを経て三の塔に着くと、塔の岳まではるかに続く尾根の道のりが見渡せる。塔の岳がかなり遠くに見える。登ったり下ったりを繰り返して尾根を越えていく。三浦半島から熱海まで、湘南の海と街が見下ろせて気持ちがいいが、それもやがて見飽きたと感じるくらいに疲れてくる。危ないところはほぼないものの、体力的にはなかなかハードだ。登るのはしんどいけれど、着実に高度を稼いでいるという実感がある。下るのは楽だけれど、その分稼いだ高度を使いきってしまっているという後ろめたさもしくは徒労感を感じる。脚が疲れてくれば、下りもまた辛い道のりになる。僕は何かと人生に絡めたがるけれど、山の登り下りもまた、人生に似ていると思う。下りはじめるにはまだ早いし、いつになっても再び登りはじめるのに遅すぎるということはない。
太陽がかなり傾きはじめた頃にようやく塔の岳の山頂に着く。山頂でお弁当を食べていると、筋骨隆々とした太ももを完全にむきだしにした短パンに登山用のスパッツ、Tシャツ姿のおじいさんが、段ボールいっぱいの食糧を背負って歩いてくる。強力(ごうりき)だ。既にきょう二度目の登頂で、人生で4108回目の登頂だという。少し話をして、一緒に写真も撮らせてもらう。脚はぶっといのだが顔は驚くほど小さい。まさに仙人のようだ。
面白いので彼について下山する。背中が空身になった強力は、淡々としかしそれなりのスピードで下ってゆく。最初はついていけそうに思えたが、傾斜が急になるにつれて差が開く。強力はまるでひとつひとつの石の場所を全て記憶しているかのように、淀みなく軽やかに歩を進めていく。そして登山道から外れて、けもの道に消えていった。
日も暮れかけた頃、麓に下りる。くたくたになったが、もっと山に来ようと改めて実感。