ようやくきのうになって、夏の空気から秋の空気に入れ替わったように感じられる。あわせて、土曜日の昼間、ビッグサイトから東京駅に戻るバスのなかで深く眠ったことで、目覚めてバスを降りて秋風に吹かれた途端に、相転移のように僕の頭のなかがうまく切り替わった。時に横になって眠るよりも座りながら居眠りする方が効果的だったりする。毎年言っているが、僕は秋になるとなんとなく気力が充実して脳が冴えてくる。単なる気持ちの問題なのだろうが、自分のなかで秋を感じて頭を切り替える瞬間は、毎年大切に意識している。
★★★
上司にもらった将棋の本を読む。
- 作者: 升田幸三
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2002/09/01
- メディア: 文庫
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僕にとって1979年に引退し、1992年に亡くなった升田幸三はほとんど伝説の存在でしかない。自由奔放な発言や伸ばし放題のヒゲと長髪の姿から破天荒な印象があり、事実本文でもびっくりするようなエピソードがあったり、現代からみると差別的な表現が使われていたりもしくは人のことを辛口で批評していたりもするのだが、不思議と読んでいて嫌な感じが全くしないどころか、ものの見方にその通りだなとうなづかされることが多かった。
とにかくエッセンスがたくさん詰まっていて、読んでいて自然と、自分にとっての本業である今の仕事のことを思い浮かべていた。いくつかメモしておきたい。
■自己暗示をかけることも実力のうちである、先を読む時は往々にして足下を見落としがちになる、無心になった時に本質が見えてくる、良い成果を出すための下地として心と身体の調整に気を配る、積み重ねてきた蓄積なくして新手・ひらめきは生まれてこない、臆病であることの効用、たどりきて未だ山麓の境地、勝負師とは最後の最後まで最善を尽くすことのできる者であるということ、てんぐになるということの愚かさ、人づかいと人あつかいの妙、人間としての美しい姿について、大局的な視点を持つこと
自分自身今まで自然と気をつけていたことと同じことを升田先生が語っていると嬉しくなり、僕がさっぱり実践できていない部分を衝かれて痛い思いをしたり、心の動くことの多い一冊。今まで印象でしか触れたことのない棋士の語り口に触れて、直に先生のことを理解できたような気持ちになれたのも良かった。この時期に、上司から何気なくもらったことに(もちろん彼にとって他意はなにもないのだが)セレンディピティを感じる。