『「当事者」の時代』に生きる。

佐々木俊尚氏のキュレーションツイートを、毎朝の楽しみにしている人は少なくないはずだ。そんな氏の新刊を読んだ。

「当事者」の時代 (光文社新書)

「当事者」の時代 (光文社新書)

★★★

まず、新書であるにもかかわらず500頁近くの大作である。そして新書であるにもかかわらず全体の構成はひとつの壮大な物語を読んでいるかのようである。前半部分にいくつもの伏線が撒かれ、それらの伏線はひとつ残らず最終章に向けて収斂していく。単なるワンテーマの新書とは全くもって中身が違う。

それぞれの伏線についても、多岐にわたるエピソードが散りばめられている。新聞記者時代の実話を絡めた記者クラブ市民運動の話、学生運動の話、人類学の話、米国映画の話、日本の神社と神にまつわる話、戦後社会を生きたいく人かの日本人それぞれの話。それぞれのエピソードだけを単独で読んでも興味深く描かれており、一読に値する内容だと感じた。それらの一見全く関係のなさそうに見えるエピソードを本書では、それぞれのエピソードに関連性を見出し、個々のエッセンスを取り出し、つなげて、昇華させている。読む人にとってはこじつけのように思うかもしれないし、氏がエッセンスのつながりを繰り返しロジックとしてつなげていく文章を、冗長な言い回しと揶揄する人もいるだろう。重箱の隅を突けばツッコミどころもたくさん出てきそうな文章ではあるが、それでもあえて、これだけのエピソードを再構成してひとつのロジックに仕立て上げた氏の努力と技量には感服する。

そして、本文中には、最終章の一節を除いて大震災と原発事故のことは一切触れられていないのだが、読み進めていくうちに自分の脳裏の中で、この1年の大震災や原発事故にまつわるメディアや個々人のスタンス・意見表明のもろもろについて、知らず知らずのうちに思いを馳せている自分がいることに気づく。本書において氏から提示される視座や気付きをもって、どうしても大震災や原発事故後の自分たちのことを立ち返って考えずにはいられない。

本書については、これからも手元に置いて何度か読み返し、その度に新たな気付きや味わいを得ることになる予感がする。この本には、これまでの自分を省みたり、自分自身がその時々で直面する壁や心の逡巡に対して、それを受け入れて自分の中に消化していくエッセンスが散りばめられている。

壮大な物語の最後は、『あなたはあなたでやるしかないのだ。』というメッセージで締めくくられている。身も蓋もないが、僕は僕で、自分のやるべきことを進めていくだけだ。人間としての熱量を持って、しかしながらあくまで淡々と。