渡良瀬橋。

栃木(足利)と群馬(前橋)へ出張。途中で一度大きめの地震があった。震災以降はじめて出張したのも足利市だったことをふと思い出した。あの日も震度4程度の余震に数回見舞われた。

アポイントは午後からで、午前中は半休をとっていたのだが、朝から東京を出てわたらせ渓谷鉄道に乗ってきた。以前桐生に出張したときに、町を流れる渡良瀬川の風景に情緒を感じたので、その奥を見てみたかったという気持ちがあった。あと足尾銅山も一度見てみたかった。

JRに間借りしている桐生駅の1番ホームから、わたらせ渓谷鉄道ディーゼルカーはそろりと発車した。すぐに渡良瀬川を渡る。ディーゼルカーはたった一両ではあるが、女性のアテンダントが乗っており、車内放送の代わりに肉声で駅への到着や沿線の観光案内をしゃべってくれる。そういえば夏休みとはいえ平日の昼前の車内に、Yシャツ姿をしているのは僕だけで、ほとんどの人は観光客のようだ。地元の人もあまり乗っていない。なるほどこの路線は観光輸送でもっているのだろう。

車両基地のある大間々を過ぎると、先ほど渡った渡良瀬川が川幅を増しながら近付いてきて、鉄道名称にもある渓谷が近付いてくる。小雨が降っているが、川面は静かに緑色の水をたたえている。暑い日でも気持ちよさそうだ。いくつかのトンネルをくぐっていく。去年屋久島で縄文杉のトレッキングに行ったが、あの時に歩いたトロッコ道に似ている。線路に迫ってくる木々の葉っぱを見ているとどうもモミジやカエデのようで、紅葉の時期はなおさらよいだろうなと容易に想像できた。トロッコ列車も走っているようだから、秋に時間ができたら乗りにいきたい。

終点の間藤や銅山のある(公害や日本史でも有名な)足尾まで行きたかったが、そこまで早起きできず、仕事の時間の都合もあるので途中の神戸駅で降りて桐生に戻る列車を待つ。山あいに駅だけがあり、森からイオンが降り注いでいる。おじちゃんが昔の弁当売りのようにかごをかけて食べ物を売っていたので、ふかしいもを買う。待合室のラジオから高校野球中継の音が流れてくる。

帰りのディーゼルカーも観光客で混んでいた。巻き戻しのビデオを見るように景色が流れて1時間少々で桐生に戻る。雨が強く降っている。

18時すぎ、仕事のアポイントを全て終えて前橋から高崎に戻る電車を待っていると、空の色が濃い青に変わってきた。8月も下旬に近くなると日の入りが早くなる。気温もぐっと下がってきて、季節が変わりつつあることを眼と肌で感じた。秋を感じると、僕は気持ちがそわそわしてくる。