笑い声。

とっさに出る笑い声、ほど人の性根を正直に表すものはないだろう。引きつった笑い、含み笑い、人を馬鹿にしたような笑い、見下すような笑い、クスクス笑い、音のほとんど出ない薄ら笑い、過去のことを思い出して無意識に漏れ出る笑い、妙にかん高い声、笑いの種類は十人十色だ。


いくらお世辞を並べたって、丁寧な物腰や言葉遣いをしたからって、感情が大きく動いたときの笑い声を取り繕うことはできない。笑い声には見た目に匹敵するくらいに膨大な非言語情報が含まれている。40歳になるとそれまでの人生が顔に刻まれる、というが、40歳にならなくとも、それまでに経験してきたこと、抱えてきた感情、形成されてきた精神性などが笑い声には凝縮されている。


この人は信頼できるだろうか、自分のなかの大事な部分を預けてもよいだろうか、そういったことの判断において、笑い声は重要な参考情報になる。なのに、とっさにいま、自分はどんな笑い声を普段出しているだろうか、と想像してみても、思い出せないのだが。