名人戦。

最近は将棋ももっぱら日課で指すだけになってしまい、なかなかタイトル戦を追いかける時間もなかったのだが、今回は少し時間をかけて見ることができた。そして度肝を抜かれた。名人戦第1局である。

毎年桜が散りはじめた時期に椿山荘で行われるこの対局は、1年で最も注目される1局と言ってよいだろう。プロ棋士奨励会員も、全国のアマチュアファンが見守るなかで、名人と挑戦者が2日間に渡り盤上で技巧を尽くす。

対局は、1日目から非常に激しい展開になった。つい先週放送された『プロフェッショナル仕事の流儀』のなかで「年数を重ねるとブレーキの踏み方がどんどん上手くなり、アクセルの踏み方を忘れることがある。そこは意識的に意図的にアクセルを踏む」とコメントした通り、羽生善治は思い切りアクセルを踏み込んだ。そして、1日目の夕方から2日目の夕方まで、検討していた大勢のプロ棋士を含めた大方の見立ては、「羽生劣勢」であった。

早い時間の終局もある、と言われながら、対局は2日目の夜までもつれこみ、最後に頭を下げたのは名人佐藤天彦だった。そもそも羽生は劣勢だったのか、その形勢が見えていたのはこの世界で羽生だけだったのだろうか。