つまみ食い。

昔の同僚に数年ぶりに会う。彼は出身地に戻って根を張っているのだ。戻ってから数年、巡ってきたチャンスをひとつずつものにして、彼は着々と未来に向けてステップを重ねている。

ひるがえってわが身を振り返ってみる。東京を拠点として、いろんなことに首を突っ込んでいるのは間違いないが、彼に比べればどれも本腰を入れて取り組んでいるとは言いがたい。はっきり言っておいしいところだけをつまみ食いしているような自覚もある。もっと言えば、その上澄みをすくって口にふくんで生きているようなものだ。それが自分の身になっているとは言いがたい。

東京はいろんなことをつまみ食いできる街だ。おいしくなければ次の果実を探せばよい街である。好きなものだけ食べていればよい街である。故郷でふんばっている彼には、逃げることのできない仕事も多い。同じような仲間も少ないなかで、とことん1人で考え抜かなければならない時も多いと聞く。そうした時間の積み重ねが、人間を形づくっていくのだろう。

じっと手のひらをみる。