父親。

出張のおり、山あいの小さな町を通った。結婚してからも何度かスキーで遊びにきたり、山を登りにきたこともある場所なのだが、その時にはふと、初めて家族旅行で訪れた時のことを思い出した。

確か小学4年生くらいの頃だっただろうか。夏の家族旅行の行き先だった。僕はすごく楽しみにしていたのだが、ちょうどその時に父親が尿管結石に罹ってしまったのだ。夜中に救急車で運ばれたのである。

病状がどれほど深刻だったのかはわからないのだが、その時に僕と弟は旅行が中止になるのが嫌でわんわん泣いたことをよく覚えている。両親は困っていたが、結局体調も回復したので、予定通り旅行に行くことになった。それがすごく嬉しかったことも覚えている。

おそらくは父親もだましだましの体調で旅行に望んだのだろう。その街に泊まった翌朝、父親は町の診療所に向かったのだ。そのときの、やや背中を丸めて歩く姿が今でも脳裏に焼きついている。その後無事に旅行は終わった。

一番父親らしい瞬間、と言うとあの時のことを思い出すのだろう。