23時22分。

関西方面から帰京する際に、最も乗ることの多い列車はのぞみ62号だ。長い長い1日の残り時間が1時間を切る頃、列車は小田原駅を通過する。ゆっくりと荷物をまとめ、腰をあげてトイレに立ち寄る。そのままドアにもたれかかり、漆黒の向こうに目を凝らす。

新横浜到着は23時14分、すっかり人気のなくなった改札を通り抜け、横浜線のホームに向かう。狭いホームに家路を急ぐスーツ姿の人が群れをなす。やがてゆっくりと緑色の電車が滑りこんでくる。

列の最後尾に並んで電車に乗り込む。菊名駅までは2分少々だが、ドアの上のビジョンを眺めていると長く感じる。デジタル時計とにらめっこしながら、電車が減速していくのを感じる。菊名駅到着は時刻表上は23時21分15秒、乗り換え先の東急東横線の各駅停車が菊名駅を発車するのは23時22分ちょうど。

ドアが開くと同時に弾かれたように僕は走り出す。階段は一段飛ばしにせず丁寧に降りる。自動改札機に紙の切符を投入し、いったん動きを緩めて身体ごとかがんでPASMOをタッチする。そうして登り階段を再加速して一段飛ばしに駆け上がり、まわれ左を向いてエスカレーターを降りる。ここで既に勝負は決している。

各駅停車が扉を閉めてゆっくりと走り出す後ろ姿を見つめる夜は、疲れがいっそう忍びよる夜だ。