歩く。

11月もあっというまに折り返しを過ぎて、街にはクリスマスソングが流れるようになった。これから思い思いにそれぞれの年末年始に突入していくのだろう。12月で年が一巡する、という暦はよくできていると思う。

年末が近くなって気持ちがそわそわするのが理由なのかはよくわからないが、毎年12月はブログを書いていない。書いていたことのある時期を探してみると、4年前、2009年にさかのぼることになる。若干忙しくはなるのだが、今年は書けるだけ書いてみたい。

★★★

1年ぶりに週末に仕事をする。首都圏内をあちらこちら移動する。仕事ではあるけれど、スーツではないし天気も良いので気持ちがよい。てくてくと郊外の道を歩いている。

寒い朝の空気が太陽の光によってほぐされ、しばらくその下で歩いているとうっすらと汗をかく。時にはイヤホンを付けて音楽を聴きながら、時にはなにもかも外してずんずん歩く。Googlemapではあんなに遠く思えた道のりも、いつの間にか大半が過ぎている。

初めて降り立った街を歩く。白地だった頭のなかの地図に、新しい情報が書きこまれていく。歩くことは生きることだとすると、新しい土地を歩くことは、生きる幅を広げることだと思う。それは生きることの喜びにつながる。

昔友人が住んでいた街を歩く。その頃遊んだことを思い出して歩く。空き時間に本屋で立ち読みしたことや、深夜に買い出ししたこと、深夜に独り部屋を抜け出して帰ったことを思い出す。過ぎ去った日々がもう戻ってこないことを思う。

ロードサイドに立ち並ぶチェーン店を見ながら歩く。店から発される食べものの匂いを感じながら歩く。チェーン店によってそれぞれの独特の匂いがある。お腹が空いたら、ポケットからレーズンサンドを取り出してかじる。

紅葉が始まりかけた、銀杏の匂いの立ちこめる並木道を歩く。虫が指先にとまる。指先を咬むでもなくとまっているだけなので、追い払わずにいると、いつまでもくっついてくる。

やがて、日が西に傾きはじめる。ことにこの季節は日没が早い。名残を惜しむかのように、向こう側の陽の光を浴びて歩く。それも一瞬のことで、あたりは深い蒼に包まれるようになり、体感気温はぐっと下がってくる。

歩き終えて駅に戻り、電車のシートに腰を下ろすと眠気が襲ってくる。平日の夕方や寝る前に感じるそれと同じ眠気が襲ってくる。そのまま眠りに堕ちると、深くて良い睡眠が取れるそれだ。眠気ではあるが、それはなにがしかの務めを果たしたあとの甘美な心地でもある。