point of no return.

全くもってサプライズであった。

4日、黒田新総裁がぶっ放したバズーカ砲が、株価を跳ね上がらせ、為替をぶっ飛ばし、長期金利を一気に押し下げた。異次元の緩和と銘打たれた施策が、文字通りマーケットを異次元にいざなった。これまでさんざん欧米が行ってきた緩和策を指をくわえて見ているしかなかった日本が、いよいよ満を持して金融緩和に乗り出した。遅れてきた大物が表舞台に戻ってきた。世界からもそのような目で見られている。

「2年でインフレ率2%を達成する」「2年でマネタリーベースを2倍にする」「2年で国債保有残高と平均残存期間を2倍にする」何と明快なメッセージだろうか。マーケット参加者は狂ったようにポジションを取った。日銀がこれからどんどん買ってくれるわけだ。日銀が買う前に先に買えば買っただけ儲かる。リスクを取らないことが最大のリスクである、という言葉はこの日のためにある。リスクを取った者だけがその果実を受け取るわけだ。

じゃあ誰が損しているか?遅れてマーケットに買い注文を出す日銀ということになるだろう。しかしながら日銀が買うお金はどこから出ているか?となるとそれは僕ら一人ひとりということになるだろう。強いて言えば現預金をぼーっと寝かせている人が一番損をするということになるが、僕らがちょっとずつ損をした総和が、リスクテイカーに分配されたということだ(純粋なゼロサムゲームではなくて、円安進行によるメリットデメリットの影響は個々に受けるだろうが)。

日本ではリスクを取らないことが結果的に最大のリターンをもたらした時代は、あまりにも長く続きすぎた。今さら時代が変わったからといって、皆がおいそれとリスクを取るようになるわけでもない。また、リスクを取ることができるわけでもない。そんなことを考えると、このサプライズを素直に喜べない。

5日も引き続き朝方は株高、円安、債券高が進行した。株式は400円を越える上昇で始まったが、昼すぎにかけて株式と債券は崩れかかった。最終的に株式は前日比約200円高で引けたが、むしろ実質的には200円下落という表現が的確だ。5日夜の米国雇用統計の数字も悪く、市場は週明けからも相当緊張感が求められる展開になるだろう。

上昇気流に乗るにせよ、途中で真っ逆さまに墜落するにせよ、どちらにせよ賽は投げられた。金融政策は戻れない道を歩き始めた。2013年4月4日とはその一里塚として、後世に記憶される日になることは間違いない。