猫ひろしに学ぶ生存戦略。

猫ひろしロンドンオリンピック男子マラソンカンボジア代表に選出されたことについて、批判の声が挙がっている。ルールの範囲内ならばなにをやってもいいという考え方と、今回の決定はオリンピック精神に反する、商業主義的な思考に侵食されている、という考え方があり、それぞれごもっともだと思うのだが、僕は少し違う観点から猫ひろしの事例は興味深いな、と感じていた。

猫ひろしの記録は女子のトップレベルにも達しておらず、当然日本代表としての選出は望むべくもない。しかしながらカンボジアではマラソンに取り組む陸上選手自体がそもそも少ないこともあり、代表の座をつかむことができた。猫ひろしはお笑い芸人という枠を越え、自らの強みである「走る」能力(もともとランニングクラブに所属し、「走れる」芸人としての地位は既に築いていたが)を最大限に生かす方法として、国籍を変更してカンボジアの代表選考会に出た。これがオリンピックという世界において倫理的に許されるものか、という問題はあるだろうが、ビジネスの世界の観点からみれば猫ひろしの戦略は100点満点だろう。少し話は飛躍するが、国内でなかなか芽の出ない人が学ぶべき要素があるのではないかと思う。日本国内では通用しなくとも、海外にフィールドを移せば充分通用するビジネスや趣味や特技はたくさんあるはずだ。ことスポーツの世界に限っても、生活のために国籍を変えて競技活動を続ける選手は珍しいことではないし、そういった決断は面白半分の挑戦とは全く違うものだ。今回の件に関しても、考えようによってはタレント猫ひろし生存戦略であるとも言えるのだ。倫理的にはともかく、使える制度をフル活用して自分の存在を高めようとする姿勢はすごい、と僕も思う。

当然猫ひろし陣営は批判の声が挙がっていることも重々承知しているだろうし、だからこそ代表選出会見もギャグなど一切なく硬い雰囲気で行われた。今回に限っては本番のレース中に持ちネタを披露することもなく真剣に走りきるだろう(と、信じている)。テレビの扱いにしても、批判の声を充分考慮したものになるだろう。当然猫ひろし自身にしても、これを機会にランニングの分野を越えてカンボジアと日本をつなぐ存在となるべく、活動を続けていくのだと思う。そうでなければさすがに落選したカンボジアの選手に失礼だ。カンボジアの人々と日本の人々の心をうつような真剣な走りを見せてくれることを期待している。