プラットホーム。

昔から僕は村上龍の描く近未来小説を読むのが好きだった。最初は大学に合格してすぐの頃の空き時間に読んだ「希望の国エクソダス」だっただろうか。今までで読んだ本で一番カルチャーショックを受けたと言ってもいいかもしれない。それから彼の著書をどんどんさかのぼって読んだり、新刊を手にしたりしている。彼の小説で描かれている近未来は、現代の価値観に照らすと、どちらかというと暗澹としたものであるが、それでも彼の文章を追っているとなんだかワクワクしてくる。それは、彼が暗澹とした世界に咲く新しい息吹に焦点を当てて文章を紡いでいるからなのだと思う。彼の文章によって、僕の未来観はそのかなりの部分を構成されていると言っても過言ではない。

時が流れて、いくつかある近未来小説の舞台となった年月は、既に僕たちは経験してしまった。よかったのかどうかは何とも言えないが、世界は彼が描くほどにドラステッィクには変化しなかった。

村上龍の文章を読みながらワクワクしていた僕はそこに、新しい世界に息吹を起こす存在としての自分自身の未来像を重ね合わせていたのだろう。その頃の自分は、まさか自身が変化についていけない側の人間になるかもしれないとは思いもしなかっただろう。当時の僕は紛れもなく若かった。そして今。

★★★

僕が昔想像していた世界と比べても、時代の動きは緩慢である。しかしながら、目に見えて、これまでの価値観が崩れていき、新しい価値観が芽生えつつあることが、日を追うごとに感じられる。加えて、その変化はまだら模様にしか進まないこともわかってきた。人間というのはなかなかすぐに変わることができない生き物だということも身にしみて感じる。なにより自分自身がそうであるからだ。

そんな自分の性分はよくわかっているが、それでも僕はこの世界にドラスティックに変わってほしいと強く思う。しっかり振り落とされないようにしたいが、もうロートルなのでついていけないかもしれない。願くば、周りについていくだけでなく、新しい世界に息吹を起こす存在でありたい。いやむしろ、周りが変わるから自分も対応していくのではなくて、先んじて新しい世界に飛び込んでいくべきだ。まだまだ老け込んだり、冷めた目してしまうには早すぎる。