わが家のマンションのベランダでは、この季節になると虫の音が聞こえるようになった。煩すぎて気になるほどのものではないが、しっかりと存在感を持った音が聞こえてくる。一階の廊下には、コオロギが歩いていることもある。
遅い時間に帰宅して、誰もいなくなったリビングに、キッチンの薄明かりだけを点けて座っていると、虫の音だけがよく聞こえてくる。そうしてぼうっとしていると、心が鎮まってくるのがわかる。
あしたに備えて早く床につかなければならないのは分かっているけれども、もう少しこの時間を味わっていたくて、座っている。テレビも点けずに座っている。眠ってしまうと、また朝が訪れてしまうのが惜しくて、眠れずにいる。
これから数年、もしかすると数十年、なにかあった時も、なにもない時も、こうして深夜に1人ぼうっと座っているのだろうなあ、と考える。なんらかの分岐点に差し掛かったとき、おそらくはこの時間のこの場所で決断することもあるのだろう。本当に決断するような時はここには書かないだろうから、今のうちにそんなことを書いておく。秋が深まっていく。