温泉旅館。

伊豆箱根方面の温泉地へ出張。湯河原と伊豆長岡という渋めなコンビ。きょうの首都圏は強い風雨や雹が降ったり、横浜駅が水没したりと散々な天候だったようだが、伊豆あたりは雨がざっと降ったくらいで済んだ。その代わりに、帰路でしっかり余波を受け、予定していたよりもかなり帰社が遅れたのだが。天気ばかりはどうにもならない。

湯河原には初めて訪れたのだが、古くから文豪たちが定宿にしていただけあって、普通の温泉地とは違う独特の空気が流れている。閉店したままのパチンコ屋、碁会所、道ばたの商店などで、これまでに行われたであろう人々のやり取りに思いを馳せるのは楽しい。思わぬところに名だたる人の別邸があったり、お忍びで使われるであろう大企業の小ぶりな保養所があったりする。湯河原に限らず、湘南から伊豆箱根鉄道に至るエリアの街や観光地には、日本で1番古き良き昭和の世界が残っていると言ってもいい。他の地方であればとっくに淘汰されているであろう旅館や観光地が、抜群の地の利の良さに支えられて今日まで延命され、その猶予を生かしてビジネスモデルを転換して生き残った(熱海だけはバブルのあだ花として消えていったが)。わざわざ有名な温泉地に行かなくても、湯河原でゆっくりするのも悪くない。

伊豆長岡もひっそりとした温泉地だ。三島から、伊豆箱根鉄道というローカル私鉄で向かう。途中で行き違う特急踊り子号もまた、昭和の匂いが濃い。昔ながらのプラスチック製の蓋付きお茶ケースがよく似合う車体だ。いちいちノスタルジーを感じる。車内にいるのは、ゴルフバッグをかついだ定年退職して間もないであろう男性グループや、70代であろう女性の2人連れ。40代や50代の人すら見ない。平日の温泉地の風景はこんなものなのだろう。寂れた感じは否めないが、ギラギラした看板やお店もないので、興ざめすることはないだろう。

どちらの温泉街も、賑わってはいないけれど、かつての賑わいの面影を程よく残している。こういった温泉地に、フルサービスの高級旅館が進出する余地はまだまだ残っていると思う。チェックインからチェックアウトまで、旅館内で過ごすこともできるし、街に出てもそれなりの雰囲気が残っている。バイキング付き定額料金の旅館が席巻した時代は既に終わり、客室数の少ないフルサービスの旅館がこれからは生き残っていくはずだ。