奈良の朝。

奈良に泊まる。おそらく初めてのことである。大阪で飲んだあとにJRでとことこと移動する。静かな車内では、酔客のいびきがことさら大きく響く。ずいぶんと長く乗らされていたような余韻を残して深夜の駅に降りたつと、駅前の広場が見違えるように綺麗になっている。


翌朝早く起きて、付近を散歩してみた。もう冬の冷え込みなのだが、澄んだ東の空から太陽の光が差してきて、不思議と寒さはそれほど感じない。顔にも柔らかい光があたってくる。


音や湯気などは確認できないのだが、どこの建物からも、朝になって1日の支度をはじめているのがなんとなく伝わってくる。なにかが蠢いているような、そんな感覚だけが伝わってくる。


ひとしきり歩いてホテルに戻る。温かい茶がゆが、本当のところは冷えきっていた身体に沁みる。ここ数年あまり訪れることのなかった奈良も、またゆっくりと旅で訪れたい場所のリストに加わりそうだ。遅れがちな紅葉で、山が黄色や赤に染まって鮮やかでもある。