記憶。

旧友と会うと、ふいに昔、その人に対して失礼な言動をとってしまったことを思い出す。よく、いじめた方はすぐに忘れてしまい、いじめられた方はずっとそれを覚えている、と言うけれど、それは必ずしも正解ではないように思う。

いま、なんの屈託もなく目の前で笑って話せていても、もしかしたら心のなかに昔投げつけられた言葉の記憶を残していて、苦々しく思っているのではないだろうか、なんて勝手に思ってしまう。忘れていてくれればいいのだが、などといった都合のよい願望を抱くのは難しい。

いまさら昔のことを取り上げて謝るのも、むやみに記憶を掘り起こしてしまうのが怖くてできない。僕にできるのは、その人に会うたびに昔のことを思い出して心のなかで謝ることだけだろうか。

せめて、これからは同じようなことをしないように、心がけるしかないのだろう。頭のなかが考えごとでいっぱいなとき、人に対してなにかを言いたくて仕方がないようなときは、一度我に返ってそれが独りよがりな考えやおせっかいでないか、ひと呼吸おいて確認しないと、不用意なことを口にしてしまいがちだ。