龍。

書斎の本棚で、村上龍の単行本を手に取った。わが家には、ここ20年くらいの彼の本が揃っているのだ。

パラパラとページをめくる。今から読み返せばほとんどの作品は、やたらと導入部が長く精密に書かれている。むしろ導入部にこそ作品の命が宿っていると考えたほうが良いのかもしれない。綿密な取材に裏打ちされた、ちょっと未来の、やたらとリアリティがある文章だ。

それぞれの本を読み返すと、当時刊行直後に読んだ時の自分自身のありようを思い出す。「希望の国エクソダス」は、大学受験が終わった直後に読んだものであった。3月10日くらいから4月1日までのどこかで、外が薄明るくなるまでに一気に読み通したことを覚えている。これから漕ぎ出す未来がどんなものか、身ぶるいしながらページをめくり続けたことを覚えている。

もしかすると、あの本の延長線上に、僕の歩んできた道のりは続いているのかもしれない。価値観を形づくった本として、真っ先にあげるとすればこの本なのだと思う。