バランス釜。

古い居宅に上がる機会があって、ふと昔のことを思い出した。

学生時代に住んでいたアパートはバランス釜だった。たぶん築年は僕の年齢を上回っていたはずだ。浴槽は、体育座りをしなければ入れないほどの小さなものだった。ダイヤルを回して着火させるのだが、コツが必要で、空振りにならないかとヒヤヒヤしたものだ。

普通のお風呂よりも湯面のあたりの温度が高くなる代物で、いつも手を突っ込んであちちちと声を上げながらかき混ぜていた。いつだか、湯を沸かしすぎたことがあって、沸騰寸前まで熱くしてしまったことがあった。あの時は風呂場のドアが真っ白になり、猛烈な湯気が吹き出していた。とてつもない大鍋で湯を沸かせばこういうことになるのだ、と思わされるものだった。

それからも古いアパートに住むことはあったが、バランス釜に出くわすことはなかった。使っていたのは2年くらいだっただろうか。バランス釜に出くわすと、その当時に抱いていた思いなどもセットで甦ってくる。短くとも濃い期間だったと思う。