新刊。

夫婦揃って好きな作家である新庄耕せんせいの新作「サーラレーオ」を読む。物語のパターンは前作、前々作と同じなのだけど、毎度毎度わかっていても新庄ワールドに引き込まれる。

出張先のホテルの静かな部屋で読んだので、なおのこと夢と現実の境目がごっちゃになる。まるで自分がこの話の主人公のようにどんづまりの立場にいるかのように、心臓が高鳴る。昔、大学生の頃に学生宿舎のギシギシと音が鳴るベッド(脚を高くしていたので、さながらゲストハウスの二段ベッドの上段の気分だった)に寝そべりながら、沢木耕太郎深夜特急シリーズを読み込んだときと同じような、浮遊感だった。

バンコクには大学生の頃から数えてもう何度も訪れたことがあるので、情景もありありと浮かんでくる。バンコクの街のあの猥雑さと倦怠感の入り混じった空気は、せんせいの筆致にぴったりと合う。60数ページと短編ではあったが、これくらいのボリュームのほうが間延びせずいいのかもしれない。とても楽しい読書タイムだった。