転化。

用があって、昔住んでいた場所の帰り道を通って帰宅した。昔使っていた駅から、昔住んでいた家まで、当時と同じルートを自転車で走った。

よく通ったラーメン屋、見慣れたスーパー、懐かしい道のりを走っていると、まるで3年くらい前にタイムスリップしたような感覚になる。真新しい記憶は、思い出に転化するにはまだ早いのだ。

昔住んでいたアパートの前で足を止める。新しい主がそこには入って、ぼんやりと青いカーテンごしの光が見える。それだけを見届けて、ペダルを漕ぎだす。

不意に歌声が口から出てくる。昔は帰り道に自転車を漕ぎながらよく唄を歌っていたのだ。夢遊病者のように口ずさみながら、すっかり涼しくなった雨上がりの夜空を走る。

思い返せば、前のアパートに住み始めたここ6年半でも、いろんなことがあった。嬉しいことも、悔しいこともあった。たぶんこれからも、同じくらいに起伏に富んだ人生なんだろう、と思いながら、ペダルを漕ぐスピードをもう一段階速めた。