運命だった。

僕よりも6歳上のとある社長の兄ちゃん(親しみをこめて兄ちゃんと呼ばせてもらう)は、会うといつも一方的にしゃべりたてる。若い頃はそれなりにやんちゃもしたようで、そのバイタリティに在りし日の名残を残す。

彼とは、会社の所在が、僕の母親の実家の至近ということで意気投合した。すぐに僕のビジネスにつながる話はないのだが、それだけに普段は得られない刺激を与えてもらっている。20代前半に父親を亡くし、右も左もわからないなかで業界のなかでもがいてきた彼は、意識しなくとも、一言ひとことに、今までの苦労が滲み出てくる。

向こうは向こうで、僕のなにを気に入ってくれているのかはわからない。なぜだか時折連絡がきて、会いましょうと言われる。そして、業界の今後について熱く語ってくれる。その話の中身から、この国の製造業が抱えている構造的な問題が、次から次へとあぶり出されてくる。

彼と出会ったのはなにかの運命なのだと思う。この運命を生かして、将来自分の生業につなげよ、という天からのメッセージを感じる。その姿は今は見えていないのだけれども、必ずや数年、数十年先の僕のライフワークにつながっていくのだろうと、根拠のない確信を持っている。