太陽の匂い。

出張でもない限り、保育園の送りは僕の役目だ。妻が玄関を出ていって少しゆったりとした空気が家の中を漂うなか、『おかあさんといっしょ』をキリのいいところまで見て、おもむろに家を出る。もう慣れたもので、「保育園にいくよ」と声をかけるとスイッチが入るのか、息子は玄関のほうに向かおうとする。

電動自転車を漕ぐ道すがら、僕は身をかがめて息子の頭に鼻をくっつける。はたからみれば変な人に見えているに違いない。そうして言葉をしゃべりはじめた息子の知っている単語を耳もとで囁いたり、ひとりごとのような戯言を話しかけたりする。

季節が巡って、家を出る頃には既に日は高く昇っている。日射しは強いが、まだそれほど暑くもなく心地よい。息子の頭に近い僕の鼻腔には、太陽の匂い、としか言いようのない匂いが、漂ってくる。なんらかの化学反応でも起こっているのだろうか。その匂いは、なんとも落ち着く、いい匂いなのである。

こんな機敏を感じるたびに、かけがえのない日々を送っていることに気づく。