ニュータウンは黄昏れて。

時間に余裕がある週末だったので、去年読んだ中で一番面白かった小説「ニュータウンは黄昏れて」を読み直す。小説の本筋としては、東京郊外の中古の団地を高値づかみしてしまった家族の話なのだが、この本筋にいろんな軸が交わってくるのがとても面白い。

ひとつは資産である不動産からの軸。時代によって変動する団地の価格、住宅ローンという重石、団地の建て替え問題、地主という身分などなどからはじまり、果てはロンドンにおける不動産という資産との向き合い方まで描かれている。ほとんどが著者の実体験に基づくものとあって、細部にいたるまで詰められており、読んでいて勉強にもなるくらいだ。

もうひとつは、小説に出てくる人たちの生き方だ。特に主人公の娘を中心とする3人の小中時代の友人グループの、最終章での現在地の描かれ方に、僕らのこれからの時代の生き方のヒントが詰まっている。けして生き抜くにはたやすい時代ではなくとも、知恵を絞って、もしくはしたたかに、時代に立ち向かっていく力を得られる作品だと思う。