下り坂。

台地に寄り添うようにわが家は建っている。いくつかの鉄道が周りを走っており、全部で7つの駅を使うことができるが、どの駅からもそれなりに遠く、バスか自転車を使うことになる。そのうち2つの駅は台地を越えなければたどり着けず、雨の日に自転車で向かうのはかなり危ない。5つの駅にはおおむね平たんな道を通って向かうことができる。

行き先によって駅を使い分けるのだが、坂のある道とない道を通る日では、なんとなく気分が変わってくる。もっと言えば、坂のある道を下っていく時なんらかの心理的作用がもたらされるように思う。生まれてから24歳までは坂のある街に住んだことはなかったので、昔の記憶を思い出すようなことはないのだが、昔の記憶に似たえもいわれぬ高揚感が湧き上がってくる。

火野正平は『日本縦断こころ旅』にて「人生下り坂サイコー」と言っているけど、人生の下り坂も現実の下り坂も気持ちいいものだと思う。それはコツコツと上った努力を消費してしまう背徳感からくるのかもしれないし、肩の力を抜くこと(坂を下る時には力を抜いている状態でなければアクシデントに対応できない)からくる解放感かもしれない。