にしんそば。

京都は雨だった。いつもは四条烏丸のあたりをウロウロして終わりなのだが、きょうは別の場所にアポがあり、北の方にも足を伸ばす。きょうは観光客も少なく、しっとりとした空気が花粉の飛散を抑えているので、歩いていて気持ち良い。大通りから一本入った路地は、呉服屋だったり、器の店だったり、ぎゃらりぃだったり、かふぇだったり、これぞ京都という店が軒を連ねている。

ふと通りがかった食堂に「にしんそば」の文字があり、つられて軒をくぐってしまった。その瞬間、高校時代の遠足で京都に来た時ににしんそばを食べた記憶を思い出したのが原因だ。思えばあれ以来にしん自体口にしていないような気がする。15年前の遠足の日も雨が降って空が暗い日だった。現地集合、現地解散の適当な遠足で、そばを啜ったこと以外は忘れてしまった。

待つこと15分、ようやく出てきたそれは、かけそばの上にちょこんと小さめのにしんの甘露煮が乗っかっていた。小骨は綺麗に取られていて、口の中で身がほろっと折れる。うす口の出汁に浸かったそばは、製麺所で仕入れたものではなくて、ちゃんと自家で打っている味がする。15年前もこんな味わいだったような気がする。

他のことは全部忘れてしまっても、にしんそばの味だけは覚えているというのも不思議なものだ。