日なた。

電車に乗る。エアコンの冷気は天井から下りてくるが、この季節になると足元から暖気がほのかに忍び出してくる。電車で感じるこの暖房が好きだ。じんわりとした暖気が心地良い眠気を誘い出す。窓の外が晴れて、冬特有のスカッとした陽光が差し込んでいればなお良い。

最近は地方のみならず都市圏近郊でも、ボタン式で扉を開閉する電車が増えた。以前ならば、車内で暖められた空気は、駅に停まって扉が開くたびに、外から吹き込んでくる風によって台無しにされていたのだが、そんなこともいくぶん減った。小さな駅に電車が停まる。誰も乗り降りしないので静寂のままに時は流れ、やがて遠くから発車メロディーが流れてきて、車掌さんの笛の音を聞くこともなく、控えめにモーターが回り出してするすると電車が動き出す。

暖房と太陽の光で車内はぽかぽか。ただの移動時間が、予期せぬ神の恵みのような時間になった。再現性のない、源泉かけ流しのような時間。この季節、この時間帯、この天気だからこそ出会えた恵み。

日々は思い通りにならないことの方が多いけれども、たまに天佑のように訪れるこんな瞬間のために生きているのかもしれない。それは往々にして自分の気持ちの持ちようしだいでもあるのだけど。