一月。

いざ産まれてしまえば、産まれる前のことはどんどんと忘れてしまいそうになる。

お腹のなかにいた彼は、夏ごろから急にぐんぐん育ちはじめた。臨月に入る頃にははや3,000gに届かんかという発育で、これは早めに出てくるのかもしれん、と色めきたち、仕事の予定も減らし、または人に委譲していた。

しかしながら予定日が近づいても出てくる兆候はない。彼はすくすく育ち続ける。早い時期から今かいまかと待ち構えていただけに、精神的にも疲れてきた。お腹に話し掛ける、「早く出ておいで〜」の声もだんだんと悲壮な叫びに近づいてきた。

それまでは胎動が活発だったのに、予定日が近づくと胎動がなくなってきた。大きくなってお腹のなかが窮屈にきたためと知りつつ、不安は隠せず、お腹に顔をあてては心拍に耳を澄ます。いつも変わらぬ鼓動が聴こえてくる。10センチと離れていないのにもかかわらず、ひどく遠く離れているように感じる。

予定日を5日過ぎて、さぁ産まれるというタイミングになって、やっと安堵感を覚えた。そこから産まれるまでが本番で大変なのだが、本番に至るまでの道のりも大変だったのだ。そのことと、無事に産まれてきた幸運を、忘れないようにしなければならない。きょうで1カ月になる。