メトロ。

「ダァシェリイェス!」と言えば京急(駅員のアナウンス、ドアが閉まります、がなまったもの)である。あまりにもこのネタが有名になりすぎて、京急の駅員さんはしっかりと発音するようになり、現場ではなかなか聞けなくなったが、今でも京急と聞いてすぐに思い浮かぶのはこのフレーズである。

京急のように話題にあがることもなかったが、東京メトロ南北線麻布十番駅の駅員さんも独特のイントネーションだった。シフト勤務なのだろう、その訛りを聞けるのは多くて週に2回くらいだったが、聞けば必ず耳に残る不思議な抑揚、低い声で「ドア、シメマァス、シメマァス」としゃべる。「、」のところでは1秒くらいたっぷりと間を空けて、言い終わるやいなやホームドアのメロディーが「ピロリン、ピロリン」と鳴って有無を言わさずドアが閉まるのだ。この抑揚のきいた声が、どんな発車ベルよりも、駆け込み乗車を目論む者の足を止める力がある。

この間、朝の麻布十番駅を久しぶりに通って、あの声を耳にした。あの声には、自動音声では代替できない要素がある。そして、声を聞いて不意に思い出される記憶もある。自動音声に、その力はあるだろうか。