産土。

小学生の頃だったろうか、父方の実家にお盆に帰った時に、車で海岸近くの小屋を通った。その時に親戚の誰かに「(君の)お父さんは昔ここで産まれたんだよ」と言われた。木造板張りの今にも崩れそうな小屋だ。ずいぶん粗末なところで産むのだなぁと子ども心に思いながらも、昔はそんなものなのかなと気にも留めていなかった。

最近になって、「産小屋」というものを知った。妊婦は出産が近づくと、病院や助産院ではなく集落にひとつ設けられた小屋に入り、そこで出産までの日々と出産後の数週間を過ごしたのだという。血が穢れたものとされていたために、妊婦を隔離する意味と、小屋で過ごすことで妊婦を重労働から回避するという両面の役割があったようだ。産小屋には集落のものからの差入れなども多かったという。なによりも、その場所で何度も出産が行われてきたということが、妊婦に不思議な力をもたらすようだ。昔話に聞いていたあの小屋は産小屋だったのだ。

もうあの小屋は取り壊されただろうか。壊されていないのならば、見にいってみたい気持ちもある。そこに行けばなにか気がつくことがあるような気がしてならない。