堂々。
NHK杯将棋トーナメント、昨日の対局のことを書かずにはおれない。
1回戦最後のカードには、熊坂学五段が登場した。37歳、プロ13年目にしてNHK杯本戦初出場。しかもプロになって以降思うように結果を残せず、一定の成績を残さなければ今年度を持って引退という窮地に陥っている棋士である。今回が最初で最後のNHK杯登場となる可能性も大いにあると言ってもいい。
対するは、香川愛生女流王将。若干21歳ながら、女流タイトルを保持し急成長を遂げた女流棋士である。言い方は悪いが、成績が芳しくない熊坂五段との組み合わせは、女流棋士にとって勝利を獲得するまたとないチャンスである。
対局は終盤になっても優劣不明の大熱戦に。熊坂五段が香川女流王将の王様へと迫ろうとする。しかしながら熊坂五段の王様も相当に危ない状態だ。そのような絶体絶命の場面で、熊坂五段は自らの王様は詰まないとみて、堂々と踏み込んでの勝ちを収めた。きわどい展開に思わず解説の中村九段も叫んでいたし、テレビ越しの僕も叫んでしまった。引退がけっぷちの棋士が、これほど見ている者の胸を熱くさせる将棋を指せるものかと思った。
次戦、またテレビにかじりついて彼の闘いを見届ける。