自転車少年。

大学受験、センター試験が終わった後の2月の前半あたりだったろうか。煮詰まり感を感じていた僕は、突如として自転車に乗って家を飛び出した。淀川の河口近くにある実家を出て、河川敷をひたすら遡り、京都府との府境まで着いたところで満足して引き返した。片道30キロくらいだったろうか。2月とはいえ日差しがあって暖かい日だったことを覚えている。飛び出した本当の原因はわからないが、あの一日があったから、頭の中がすっきりしたような気もする。そこから2ヶ月ほどの間で、人生は動いていくことになるのだ。

車を持っていなかったわが実家にとって、日々の移動は自転車であった。小学生の頃に買ってもらったカラフルな赤と緑の自転車(思えば赤色好きはここに端を発するのかもしれない)で、どこにでも行った。なかでもよく遊んだのは淀川の河川敷だ。大きな緑地や公園のない大阪の街で、とりわけ冒険心をくすぐられる場所だったのだ。幅100メートル近くある河川敷には、大人の背丈ほどもある草木が生い茂り、そのなかにできたケモノ道で遊んだ。河原では、シジミが採れたり、流れ着いたさまざまなもの(一度、人の腕も見たような。。)を拾っては遊んだ。川にはいくつもの鉄橋が架かり、そこを走る電車を眺めながらぼんやりするのも好きだった。

そんな風に育った僕が今朝ドラ以上にどハマりしているのが、NHKBSのにっぽん縦断こころ旅である。火野正平が視聴者からの手紙に書かれた目的地(こころの風景)に向かうという何ともNHKらしい番組なのだが、見始めるとやめられない。おかげで出張の際のホテルも、BS放送が見られることを条件にするようになった。

恥ずかしながらこの番組で見るまで火野正平のことは知らなかった。昔はいろいろあったそうだが、今はすっかりいいジジイになっている。彼も自転車少年だったらしい。ヒーハー言いながらチャリオ(相棒の自転車)を漕いで、こわごわと橋を渡り(高所恐怖症のため)、道ばたの花に目を向け、駆け寄ってくるおばちゃんにたじろぎつつも可愛いお姉ちゃんがいれば声をかけ冗談を飛ばす。そんな姿が子どもの頃の冒険と重なるところがあるから、ついつい見続けてしまうのだ。ロケや休みの都合で放送がない週は、あまロスならぬじじいロスに陥りそうになる。

そしてこの番組のもう一つのエッセンスである視聴者からの手紙。面白いものからしんみりとするものまで毎回内容が素晴らしい。こころの風景と言う名の通り、風景と心情は結びついて色づくのだ。僕のこころの風景は冒頭の淀川河川敷だろうか、それとも他のどこかだろうか。