あの人の話。

連絡がつかなくなってから、もう1年半が経つ。

いま、どこで、誰と生きているのだろう。ちゃんとごはんを食べているだろうか。毎晩、嫌な夢を見てはいないだろうか。穏やかに、あの人らしく心のリズムを刻んでいるだろうか。

Web上に、あの人の痕跡が残っていて、折にふれて僕はそこに尋ねにいく。そうして、けして色褪せることのないその言葉に触れては、自分を見つめ直し、前向きに立ち向かっていく力を受け取る。その昔、あの人が唄ってくれた歌と同じように。。

僕の前から姿を消した少し前に、僕はあの人と些細なことでケンカをしてしまった。大震災の後で、自分に余裕をなくしていたのかもしれない。それでもあの人はいつもと同じように、自分を責めて、僕のことを立てるようにものごとを考えていた。本当は僕よりもよっぽど辛かっただろうに。。あの人は否定すると思うけど、あの人が僕の前から姿を消した原因のひとつに、あのケンカの影響があることは確かだと思っている。今さら悔やんでも悔やみきれないけど、人間は時に過ちを犯してしまい、過ちによって失ったものについて、後から悔やみ続ける生きものなのだろう。そうやって人間ひとりひとり神様から人生のテーマを与えられ、勉強させられるのだろう。

あの人がいなくなってぽっかりと空いた心の隙間を何で満たすか。これもまた僕が与えられているテーマなのだと思う。あの人は僕にとってやはり、先生のような存在なのだ。ひとりでいる時に、ついつい間違った方向になびいてしまいそうな時に、うまく方向を修正してくれるのがあの人なのだ。面と向かって会わなくても、あの人の言葉を読み返し、あの人が作った歌を唄ってみれば、そのなかに向かうべき答えが詰まっている。

そして、あの人は、あの人自身の抱える問題を解決すべく、深い世界に潜り込んでたたかってきた。ようやく、他の誰かのためではなく自分のために集中するようになった。そこから、あの人は自分の人生をやり直している。

だから、僕自身の欲求から、あの人に会いたいと思うのは止めておいたほうがいいのかもしれない。会って言葉を交わさなくとも、あの人は僕のなかで確かに生きているし、今なお多大な影響をもたらしている。あの人の言葉の『効き目』はこれから何十年経っても消えることはないから、ずっと会えなかったとしても、きっと道を間違えずに歩いていけると思う。そして、いつかあの人と再び会う日に、胸を張って会いたいからこそ。。