グローバル企業とフリーライド。

ユニクロことファーストリテイリングに転職してみるのもいいかな、と正直数年前に思ったことがある。いわゆる「グローバル人材」として今後のキャリアを築いていくうえで、若いうちにユニクロで揉まれる経験は何ものにも代え難いのではないかと当時は思っていた。しかしながら特にアクションを起こすこともなくいつのまにかその願望は消えていた。冷静に考えて、第二新卒的に転職するよりはもっと自分の専門性を磨くべきだと思うようになった、ということもある。

以前から労働環境の厳しい企業としてユニクロは有名だったが、「ブラック企業」という単語がますます一般的になってきた今、ユニクロはこれまでにもまして、某外食産業と並んで、ブラック企業の代名詞として挙げられるようになっている。最近では柳井社長自ら、自社がブラック企業と呼ばれていることに対して切り返しの発言を行っており、それがまた火種となって議論が盛り上がっている、という状況だ。

個人的にはユニクロがそこまでブラック企業偏差値が高いとは思わない。もっと激務だったり、精神的に負荷のかかる仕事は世の中にたくさんある。しかしながら代名詞的存在を確立してしまったがゆえにユニクロはしばしば議論のやり玉に挙げられる。これは正直可哀想かなとも思う。

しかし、ユニクロに勤務することで精神を病んだり、体調を崩してキャリアや、果ては人生まで台無しにしてしまう人が一定数いることも事実ではある(ユニクロに限った話ではないが)。考えようによっては、国家が相当な資源(税金と言い換えてもいい)を投入して育てた人材を壊してしまっているとも言える。いくらユニクロが事業から利益を出して納税をしていようとも、一方でせっかく税金を費やして育てた人材を潰してしまっているという見方をすれば、なんだか複雑な気持ちになるし、納税もしながら人材を潰すことなく大切に育てている企業と比べれば公平でないように思う。

ユニクロは既にグローバル企業として、ひとかどの国家に並ぶような存在となっている。しかしながら、そこで働く人材については国民国家から供給を受けている。柳井社長は、今の日本の大学教育には意味がないと言っているが、皮肉なことに少なくとも日本の初等教育ユニクロで働く人材を育成するには非常に有効だ。企業が国家の枠組みを越えてグローバルに活動している(取引の工夫によっては租税回避さえ可能になる)一方で、国家から得られるメリットをフリーライド(タダ乗り)しているという現実がある。あまりにフリーライドし過ぎると、国家や国民にそっぽを向かれかねないことを、グローバル企業はよく肝に命じておくべきだ。