上京物語。

抱えている案件がだんだん刈り取りの時期を迎え、なかなか日々のアウトプットにまで神経がまわらない。僕の場合手を動かしていると頭のなかが空っぽになってしまって思考も浅くなってしまうので、言葉に残しておきたいと思うほどの思考量にたどり着かない。とりあえず目の前のことに忙しくしていれば悩みごとが吹き飛ぶというのはある意味で幸せなことではあるのだが、そんな日々が続いてしまうと僕の場合は心が渇きを覚えてしまう。

★★★

出張で青森まで行くのは初めてのことである。青森まで3時間以上と聞くと長く感じるが、実際のところ東京から新青森までと言うと東京から岡山までとほぼ変わらないくらい離れているので、随分と移動を重ねてきたように感じる。あるいは、その昔青春18きっぷでまる一日かけて茨城から青森までたどり着いた記憶のせいか。青森に来るのはその時以来、実に10年ぶりのことになる。辺りは一面雪に覆われていることもあってその頃の記憶は当然ない。

新青森から特急に乗り継いで弘前へ。弘前に来るのは10年ぶりのこと。新幹線はやぶさから乗り継いだ特急はゴトゴトと音を鳴らしながらゆっくりと走るが、窓の外の雪は激しく舞っている。

仕事を終えてドトールでひと息ついていると、隣で女子高生の喋る声が聞こえてくる。高校を卒業したら働きに東京に出るそうだ。飛び交う東京の地名に彼女たちは憧れにも似た思いを馳せている。

そうこうしているうちに隣のテーブルに男子高校生3人組がやってくる。女子高生グループはあからさまに仲間うちで目配せをして、やがてテーブルの上で顔を突っ伏すようにくっつけあってひそひそと会話を続ける。男子高校生はその動きに気付いていないフリをしてひとしきり大学受験の話をする。これまた関東の大学名が飛び交う。そして程なくめいめいに参考書とノートを開いて勉強を始める。彼らも、まだ見ぬ関東での生活に思いを馳せているのだろうか。

僕が高校生になりPHSを持ち始めた頃、友人に影響されて青森の高校生と文通ならぬメル友になっていたことがある。彼も高校を卒業したら上京するつもりだと言っていた。高校を卒業する頃にメールのやり取りはほぼ途絶えたが、彼もまた東京にやってきたのだろうか。そして今もなお東京にいる、なんてこともあるのだろうか。

滑らないように歩道の雪のついた部分を歩いていると、雪が舞っているのに身体が温まってくる。それに対して、とんぼ帰りで戻った東京は風が強く手がかじかむほどに冷え込んでいた。