インセンティブのかたち。

不謹慎だと自分でも思うが、台風がやってくるとワクワクする。すすめられたものではないが、ガランとした電車に乗ったり、スーパーに買い物に行ったりして非日常を感じたりすると心が騒ぐし、はたまた家で風が巻き起こす音を聞きながら静かに佇んでいるのも好きだ。なかでも一番好きなのは台風一過の澄み切った空気の感覚だ。混じりっけのない空気のなかを陽の光が一直線に向かってくるさまが気持ちよくて、今朝も早起きしてしまった。

★★★

世の中にはいろんな「投資」がある。教育投資、株式投資、自己への投資等々、世の中のほとんどの行動について、「投資」という切り口から観察することができるはずだ。たとえその投資が見返りを求めないものであったとしても。ビジネスパーソンもまた、労働として自分の時間とスキルを切り売りし、その対価として所属先から報酬を得ていると言える。そして時間軸の観点から「投資」は、短期的インセンティブによるものと長期的インセンティブによるものに大別されるのではないかと思う。

2000年代前半から2007年にかけては、世界中で短期的インセンティブに基づく「投資」があちこちでもてはやされた時代だった。特に、労働ー報酬の関係性において短期的インセンティブへの傾きが強く見られた。その後に起こった世界金融危機の原因は、つまるところ欧米の金融機関で働くプレーヤーたちの短期的インセンティブに基づく報酬への欲望にあると言っても過言ではない。また世界金融危機と比べれば小さなものではあったが、本来長期的インセンティブを大切にしてきた日本の金融機関においても、目先の手数料収益のために強引なセールスが行われ、企業経営や個人資産に傷跡を残した。金融業界を例にしたが、他の業界やさまざまな「投資」のシーンにおいても、短期的インセンティブを求める傾向が高まった時代だったと言えるだろう。

その後は、短期的インセンティブへの傾注に対する反省が行われ、欧米でも日本でも短期的インセンティブを軸にした労働ー報酬体系や評価体系からの見直しが進んでいるように見える。しかしながらそれが長期的インセンティブへの揺り戻しにつながっているようには見えない。というよりはむしろ、この世界から長期的インセンティブという考え方自体が壊されてしまったように思える。長期的なインセンティブ自体が、右肩上がりで成長を続けることのできた幸福な時代の遺物だったのではないか、いま振り返ってそう思う。

かと言って、今さら短期的インセンティブに戻るわけにもいかない。そこでなにを拠り所にしていくのか、というところに、新しいインセンティブのかたちのヒントと言うか、芽生えがあるのだと思う。